2025年8月6日2025年8月6日に投稿 投稿者 元)新人監督 — コメントを残すPapers about Fermi @ 2023 フェルミ 22023-02-21 13:31:17 | 物理学これは「技術と科学の歴史を考える」というタイトルの講義の後半を私が担当したときの「原爆製造と原子核物理学」というサブタイトルの講義の中の人物評伝の一部のエンリコ・フェルミの後半である。Fermiの講義録である『原子核物理学』は内容が少し古くなってきたが、原著はシカゴ大学出版局から、訳書は吉岡書店からいまも出版されており、読者に読み継がれている。日本版の訳者小林稔氏(京都大学名誉教授、故人)は訳者まえがきでつぎのように述べている。「イタリヤの生んだ鬼才Enrico Fermi教授はいうまでもなく原子核物理学の第一人者であり、人類が第二の火、すなわち、原子力を発見したのも主として彼の研究に負うものであって、彼は歴史上永久に名をとどめる数少ない物理学者の一人であることは疑いのないところである。 Fermi教授は実験及び理論の両方面に卓越した才能をもち、その業績も有名なフェルミ統計、べータ線崩壊の理論、量子電磁気学など理論的なものから、中性子衝撃による人工放射能、遅い中性子の選択吸収、さらに原子力解放の緒となった核分裂の現象、その連鎖反応など行くとして可ならざるものはなく、しかもいずれも物理学の根本問題を衝き、その自然認識の深さの非凡さは驚嘆のほかない。イタリヤにおいては僅かの放射性物質とパラフィンのみの実験室でよく世界の原子核研究に伍し、中性子の性質の探求にあざやかな業績を挙げており、アメリカに移ってからはまさに鬼に金棒、現在もシカゴ大学の大サイクロトロンを主宰し、有能な同僚や弟子たちと共に原子核研究の推進に非凡の精力を注いでいる」これはFermiが亡くなる直前に書かれた彼のプロフィールである。ここにはFermiの業績についてほとんどあますところはない。しかし、Fermiの教育上の業績についてはまったく触れられていない。この点についてはFermiの優れた弟子の一人で、ノーベル賞物理学受賞者のC. N. Yangの文章から引用しておこう。(引用はじめ)「よく知られているように、Fermiは水際立ったすばらしい講義をした。これは彼の特徴的なやり方であるが、それぞれの題目について彼はいつでも、最初のところから出発して、単純な例をとりあげ、できるだけ「形式主義」を避けた(彼はよく込み入った理論形式は「えらいお坊さま」のものだと冗談をいった)。彼の論証は非常にすっきりしているので、ちっとも努力をしていない印象を与えた。しかし、この印象はまちがっている。すっきりしているのは、注意深い準備、いろいろの異なった表現の仕方のうちでどれを選ぶかを慎重に考慮した結果のためであった。・・・週に1~2回、大学院生のために非公式の、準備なしの講義をしてくれるのがFermiの習慣だった。グループは彼の部屋に集まり、Fermi 自身か、ときには学生の誰かが、その日の討論のために特別な題目を提起した。Fermi は、綿密に見出しのついた自分のノートを探し回って、その題目に関するノートを見つけ出し、われわれに講義してくれるのだった。・・・討論は初歩的水準に保たれた。題目の本質的、実質的部分が強調された。大抵いつも、分析的でなく、直観的、幾何学的な取り組みであった」(引用終わり)(2024.3.1付記)ここにFermiの特質が述べられていて、あますところがない感じである。そういえば、これを書いたYangはまだ中国で健在なのだろうか。ひょっとして100歳を越えているか、または、100歳にとても近いかのどちらかであろう。Follow me!関連FacebookXBlueskyHatenaCopy投稿ナビゲーション前の投稿: 【「老人の呟き」からの転載_7月末】・群と代数【2007-06-07 】・デカルトと湯川秀樹【2007-07-28】・朝永振一郎著の『量子力学』の研究 【2007-08-04 】・武谷三男の資料 【2007-08-13 】・フーコーの振子1 【2007-08-20 】・Boltzmannの原理 【2007-09-26 】・物質の波動性とBohrの量子条件 【2007-10-16 】・小川洋子「博士の愛した数式」 【2007-12-11 】・三段階論は科学史から導かれたか 【2007-12-17】・DysonとFeynmanの著作 【2008-01-19 】・科学者の伝記2冊 【2008-01-24 】・宇宙と物質、その一様、等方性 【2008-02-18 】・武谷の処女論文の発見 【2008-02-25 】・場の理論は日本にはなかったか 【2008-02-29 】・物理の散歩道 【2008-03-05】・武谷の「素粒子論の発展」 【2008-04-01】 ・1965年以降の武谷 【2008-04-08 】・「私の見てきた素粒子物理学の40年」感想 2008-04-17 12:37:37 | 物理学・伏見康治氏の死 2008-05-10 11:42:38 | 物理学・思想の意義 2008-05-15・湯川朝永シンポジウムの会議録 【2008-05ー22】・広島大学理論物理学研究所 【2008-06-16 】・新版「スピンはめぐる」 【2008-06-26 】・湯川秀樹と隕石 【2008-06-27 】・山本義隆『新物理入門』 【2008-06-30 】・朝永振一郎「角運動量とスピン」 2008-07-02 15:11:17 | 物理学・独創性は少数者にあり 2008-07-27 23:30:18 | 学問・自発的対称性の破れとカタストロフィー 2008-08-26 12:41:37 | 物理学・問題の解決 2008-09-12 11:23:04 | 物理学・一流の湯川、二流の朝永? 2008-09-18 10:40:13 | 物理学・南部、小林、益川博士のノーベル賞受賞 2008-10-08 12:40:47 | 物理学・武谷三男の処女論文 2008-10-10 13:20:43 | 科学・技術・高瀬正仁著『岡潔』 2008-10-27 11:42:29 | 数学・Fermi solution 2008-11-17 11:41:53 | 物理学・地位の上下からの解放 2008-12-11 13:20:13 | 物理学・素粒子の宴 2009-01-05 11:42:01 | 日記・エッセイ・コラム・西島和彦さんの死去 2009-02-19 11:41:31 | 物理学・Feynman & Hibbsの積分公式 2009-03-26 13:58:01 | 物理学・木庭二郎さん 2009-04-10 16:13:19 | 物理学・聞かせてよ、ファインマンさん 2009-04-22 18:59:05 | 物理学・日本と外国との乖離 2009-05-13 14:10:44 | 学問・広重徹の武谷批判 2009-05-21 12:35:20 | 学問・広重徹の武谷批判をどう考えるか 2009-06-06 11:41:32 | 物理学・『朝永振一郎著「量子力学」の研究』 2009-06-13 12:37:07 | 物理学・遠山啓と武谷三男 2009-06-25 14:34:15 | 学問・四元数の発見への道 2009-08-04 12:12:07 | 数学・くりこみの意味 2009-08-19 13:00:40 | 物理・量子力学の完成はいつか 2009-08-24 17:41:44 | 物理学・再、広重徹の武谷三段階論批判 2009-09-19 13:45:03 | 物理・解析接続 2009-11-18 10:49:18 | 数学・続、広重徹の武谷三段階論批判 2010-05-18 12:00:52 | 科学・技術・矢野健太郎氏 【2010-07-14 】・ゲジゲジ 【2010-08-07 】・続、広重の三段階論批判 【2010-09-27】次の投稿: 老人の呟きから8月末抜粋_・なおし魔 【2011-04-19】・Heisenbergがノーベル賞を単独受賞した訳 【2011-05-27】・「坂田昌一の生涯」を読む 【2011-11-04】・坂田昌一の寺田寅彦批判 【2011-11-12 】・久保亮五の統計力学 【2011-11-19】・Boltzmann 因子 【2012-02-16】・Yangの新しい論文 【2012-02-17】・「素粒子論研究」終刊号 【2012-02-28 】・遠山啓と武谷三男2 【2012-03-08】・Pauliの行列の導入 【2012-03-19 】・ライフログ 【2012-04-11】・外村彰氏の死 【2012-05-03 】・四元数と線形代数 【2012-05-07】・『千の太陽よりも明るく』 【2012-07-11】 コメントを残す コメントをキャンセルコメントを投稿するにはログインしてください。