に投稿 コメントを残す

量子基礎研究で米3氏がノーベル賞を受賞【トピック_2025年度】

昔確認できていたトンネル効果とは?

量子力学では、例えば電子や陽子・中性子などミクロな粒子が「本来なら越えられないエネルギー障壁(ポテンシャル・バリア)」を、波動性を帯びる性質により確率的に“すり抜ける”現象として、トンネル効果が知られています。例えば、1950〜60年代の半導体トンネルダイオードや超伝導トンネル接合等が実験例です。古くは レオ・エザキ 氏が半導体トンネル現象により1973年のノーベル物理学賞を受賞しています。 NobelPrize.org+2NobelPrize.org+2
この段階では「原子・電子など、非常に小さな系(ナノスケール)で、しかも単一粒子または少数粒子の振る舞い」で観測されたもので、「目で見える大きさ」での実証はされていませんでした。


今回はどんなトンネル効果が確認され、どの程度“巨視的”なのか?

今回の ジョン・クラーク、ミシェル・デボレ、ジョン・マルティニス の3氏による受賞理由は明確です。

「電気回路における巨視的量子力学的トンネル効果およびエネルギー量子化の発見」 NobelPrize.org+2NobelPrize.org+2
彼らは1984〜85年に、超伝導回路(ジョセフソン接合:Josephson junction)を用い、“手のひらに収まるほどのシステム”(チップサイズの回路)において、トンネル効果および量子エネルギー準位の離散化(エネルギー量子化)を実証しました。 NobelPrize.org+1
具体的には、数十億を超える電子対(コーパー対)が集団としてひとまとまりで振る舞い、古典的には「壁の向こうへは出られない」状態にあるのに、トンネル現象により電圧ゼロの状態から別の電圧状態へ“抜け出す”という実験を実施しています。 The Washington Post
つまり「電子が1個だけ壁を抜ける」ではなく、「マクロな回路全体が量子的に振る舞って抜ける」ことを示した点が画期的です。APS Physicsの記事も「大きな物体からなる系でもトンネル効果を示せることを実証した」と報じています。 physics.aps.org
この「マクロな系」とは、複数の粒子がひとつの量子的なユニット(collective quantum state)として振る舞うことを意味し、従来ミクロ領域に限られていた量子効果が、可視・扱いやすい実機規模での実証に至ったという点で“巨視的”と言われています。


昔と今で何が違うのか?定量的に

項目昔(ミクロ系)今回(マクロ系)
系の大きさ原子、電子、ナノスケール手のひらサイズの回路チップ(数 mm〜cm)
粒子数1〜少数粒子数十億〜数十億電子対が集合
効果の観測トンネル効果、量子化:単一粒子を対象に検証回路全体が量子ユニットとしてトンネルおよび量子化を示す
状態変化の指標波動関数、電子透過率など電圧ゼロ状態から別電圧状態への転移で観測可能
技術応用基礎物理実験、半導体トンネルデバイス超伝導回路、量子ビット(qubit)、量子コンピューター基盤

このように、スケール(大きさ・粒子数・観測可能性)が飛躍的に違うのが今と昔の最大の差です。


トンネル効果は「実空間ですり抜ける」わけではない。重要な注意点

新聞などでは「電子が壁をすり抜ける」「壁の絵をすり抜けるように」などの比喩表現がありますが、これは誤解を招きやすいです。実際には次の通りです:

  • トンネル効果とは、**ポテンシャル障壁(エネルギー障壁)**を波動関数が“確率的に透過”する現象であり、電子が物理的な「壁」を文字どおり通り抜けるわけではありません。

  • この現象は、電子の波動的性質(波としての振る舞い)が働くとき「粒子的性質」が希薄になる状況で起こります。

  • つまり「物質の壁を直接通り抜けた」という理解ではなく、「波動関数が障壁を『飛び越える確率を持つ』」ことが核心です。

  • さらに、今回のマクロスケール実験でも、超伝導状態という非常に低温・極端な環境下で、回路全体が量子的に振る舞っており、日常的な「壁をすり抜ける」ようなものとは根本的に異なります。

この理解を持たずに「壁を抜けた」というイメージを植え付けると、後の量子力学・量子情報理論の学習や理解において混乱を招く可能性があります。


量子AI(量子コンピューター+AI/AGI)の概略

量子コンピューターとは、量子ビット(qubit)を用い、**従来のビット(0/1)ではなく、重ね合わせ(superposition)と量子もつれ(entanglement)**を活用して計算を行う装置です。
今回の受賞研究は、超伝導回路を用いて量子的な振る舞い(トンネル効果・エネルギー量子化)をマクロな規模で示したものであり、量子コンピューター技術の基盤(例えば超伝導型量子ビット)に直結しています。 NobelPrize.org+1
さらに「量子AI」と言われる分野では、量子コンピューター上で動作するAIモデル、あるいは量子演算を活用して学習・推論を高速化・効率化する試みが進んでいます。AGI(汎用人工知能)の実現にもこの量子コンピューター技術が「計算資源:コンピュート力」の観点から重要視されており、今回の研究が示したような大規模な量子振る舞いが実用段階へ近づく可能性を示しています。

ただし、「量子AI=すぐに人間レベルのAGIが出る」という意味ではなく、・量子ビットのスケーラビリティ・エラーレート低減・量子デコヒーレンス対策など、まだ多くの技術的ハードルがあります。今回の成果は「量子効果を日常機器スケールに広げうる」という証明であり、応用への“扉”を開いたという位置づけです。


✅ 最後にまとめ

今回のノーベル物理学賞受賞は、量子力学の奇妙な現象であるトンネル効果を、原子や電子レベルから“手のひらサイズの回路”というマクロな系にまで拡大して実証した点にあります。
しかし、重要なのはこの現象が「実空間の壁を文字どおりすり抜けた」という直感的なイメージではなく、「波動性を持つ多数粒子の系が、エネルギー障壁を確率的に越える量子的振る舞いを示した」という精緻な理解です。
さらに、この技術的ブレークスルーは量子コンピューター・量子センサー・量子暗号といった次世代技術の基盤を成し、「量子AI」の将来像にも重要な影響を与えうるものです。新聞や報道にある“壁をすり抜ける”という表現をそのまま受け入れるのではなく、「ポテンシャル障壁を超える波動的な確率現象」であるという理解を再強調したいと思います。

〆最後に〆

以上、間違い・ご意見は
以下アドレスまでお願いします。
最近全て返事が出来ていませんが
全て読んでいます。
適時、改定をします。

nowkouji226@gmail.com

2025/11/26_初回投稿

サイトTOP
舞台別のご紹介
時代別(順)のご紹介

Follow me!

コメントを残す